4.2. Autobk アルゴリズムと Rbkg パラメータ

前節で紹介したバックグラウンドとデータの周波数カットオフは «rbkg» パラメータによって決まります.これは,メインウィンドウのバックグラウンド除去セクションに表示されている2つめのパラメータです.

ATHENA にデータを取り込むと,«rbkg»デフォルト値 ,通常は 1 に,設定されます.

この例は,このユーザガイドの中の多くの例と同じように,私が公開している XAFS 教育用サイト の中にも出てきます.

例の中には鉄箔を 60 K で測定したスペクトルがあり,ファイル名は fe.060 です.File ‣ Import data を選択するか,Control-o をタイプして,ファイルを読み込んでください.測定例ファイルの場所まで移動し, fe.060 を選択してください.列選択ダイアログ が現れるので,今回はそのまま OK を押してください.

読み込まれたデータの «rbkg» は,既定値の 1 になっています.E ボタンを押すと,既定値を使ったデータとバックグラウンド関数が表示されます.これは,下図の左に示されています.

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図 4.12 fe.060 データと既定のバックグラウンド関数

../_images/rbkg_initial_k.png

図 4.13 デフォルトのバックグラウンド関数による fe.060 の χ(k)

../_images/rbkg_initial_r.png

図 4.14 デフォルトのバックグラウンド関数による fe.060 の χ(R)

データからバックグラウンド関数が引かれ,規格化されて,χ(k) 関数が得られます.k ボタンを押すと,上図の右のような χ(k) が現れます.

R ボタンを押すと,上記の下のグラフのようなフーリエ変換されたスペクトルがプロットされます.

«rbkg»AUTOBK アルゴリズムがフーリエ成分を取り除くための値です.ご覧のように,χ(R) スペクトルの 1 以下のところはほぼ 0 になっていますが,1 以上のところは 0 ではない値になっています.

それでは,«rbkg» に異なる値を選んだ場合の効果について検証してみたいと思います.まず,データのコピーを作り,異なる値を取るとどうなるか直接比較できるようにします.これは,Group ‣ Copy current group を選択するか,Alt-y とタイプすることでできます.こうすると,以下の様になります.

../_images/rbkg.png

図 4.15 元の fe.060 のデータとそのコピー

メインウィンドウで Copy of fe.060 グループを選択してそのパラメータを表示して下さい.«rbkg» を 0.2 に変化させると,バックグラウンド除去を2つの異なる方法で行った結果を比較することができます.グループリストにある複数の項目をプロットするには,紫色のプロットボタンとグループリストの項目の隣にあるチェックボックスを使います.fe.060Copy 1 of fe.060 の隣にある小さなチェックボックスをクリックすると,上のスクリーンショットのように表示されるはずです. R ボタンをクリックすると,2つのスペクトルがプロットされ,以下の様に見えるはずです.

../_images/rbkg_1_0_2.png

図 4.16 «rbkg» の値を 1 と 0.2 にした時の χ(R) の比較

../_images/rbkg_1_0_2k.png

図 4.17 «rbkg» の値を 1 と 0.2 にした時の χ(k) の比較

../_images/rbkg_0_2e.png

図 4.18 «rbkg» の値を 0.2 にした時の μ(E) とバックグラウンド

青のスペクトルはおそらくあなたが予想していた通りの EXAFS スペクトルだと思いますが,赤のスペクトルはあまりよくないように見えます.実際,赤のスペクトルがなぜこのように見えているのかは簡単に理解することができます.«rbkg» パラメータはこの R の値より小さな範囲のデータが μ(E) スペクトルから取り除かれることを意味しています.これが赤のスペクトルに起きていることです,つまり,0.2 以下のシグナルはとても小さいのに対して,最初の大きなピークは実際に 0.2 以上のところに見られています.

χ(k) についてプロットされたものが上図の右のグラフです

青のスペクトルが予想通り,0 を中心に振動しているのに対し,赤のスペクトルには明らかに波長の長い振動があります.この振動が χ(R) スペクトルにおいてR の小さい領域でピークが生じる要因です.

バックグラウンド関数の計算に «rbkg» の値として 0.2 が使われ,エネルギー軸に対してプロットされると,上図の下のグラフのようになります.

«rbkg» を 0.2 にすると,元のスペクトルに沿わないバックグラウンド関数になってしまいます.

«rbkg» がとても大きな値になると何が起こるでしょうか?«rbkg» を 1 や 2.5 にすると,χ(R) は下図のようになります

../_images/rbkg_1_2_5.png

図 4.19 «rbkg» の値を 1 および 2.5 にした時の χ(R) の比較

../_images/rbkg_2_5e.png

図 4.20 «rbkg» の値を 2.5 にした時の μ(E) とバックグラウンド

«rbkg» として非常に大きな値を使うと,χ(R) の最初のピークに明らかな変化が起こります.エネルギーに対するバックグラウンド関数を見ると,この理由がわかります.このように «rbkg» に大きな値を取ると,バックグラウンド関数はデータに強く追随するような振動を示すだけの自由度を持つことになります.その結果1つめのピークより下の強度が弱くなってしまいます.

バックグラウンド関数を計算するのに使われるスプラインは,振動に対して限られた自由度しか持ちません.スプラインの節の数は,Nyquist の基準によって決定されます.この数は,k 空間におけるデータの範囲に «rbkg» をかけたものに比例します.節は波数に対して等間隔で並びます.よって,スプライン関数は «rbkg» 以下の周波数成分しか持たないことになります.

どうすれば,R の低い領域のピークを抑えるために,できるだけ大きな «rbkg» を取ることができるでしょうか?他方で,値が大き過ぎるとデータに悪影響を与えます.バランスが大事です.

«rbkg» の値は最近接原子の距離の半分くらいがちょうど良いと思われます.しかし,これは単なる経験則です.実際のデータはより難しいこともあります.ノイズが多かったり,ホワイトラインが大きかったり,他の元素の吸収端によってデータが短くなったりしている場合には,十分な検討が必要です.«rbkg» はバックグラウンド除去で最も重要なパラメータですが,よいバックグラウンド除去を行うには他のパラメータに関してもよく検討しておく必要があります.それらの内のいくつかは続くセクションのテーマです.

AUTOBK アルゴリズムの文献は以下の通りです.

  • M. Newville, P. Livins, Y. Yacoby, J. J. Rehr, and E. A. Stern. Near-edge x-ray-absorption fine structure of Pb: A comparison of theory and experiment. Phys. Rev. B, 47:14126–14131, Jun 1993. doi:10.1103/PhysRevB.47.14126.



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