4.5. エネルギーに依存した規格化¶
低エネルギー領域で蛍光法による測定を行うと,データは下図の S K-edge のデータに示すように変わった形を示す場合があります.この振る舞いは I0 イオンチャンバの信号のエネルギー依存性によるものです.
入射 X 線のエネルギーが高くなっていくと,I0 のガスによる吸収は有意に小さくなってきます.蛍光 X 線のシグナルは If/I0 であるため,エネルギーに対して μ(E) が大きくなってきます.吸収端のジャンプ量を使った規格化では,一定のジャンプ量で割り算して規格化してしまうため,I0 のエネルギー依存性により,χ(k) のシグナルがいくらか増幅されてしまうことになります.
この増幅効果は,エネルギー依存性の規格化によりほぼ正しく補正することができます.これは,プレエッジおよびポストエッジの線を使うことで実行されています.ポストエッジとプレエッジの差を計算し,その正の数を取る差分関数をバックグラウンド除去を行う前に,μ(E) とかけます.
このように補正された χ(k) が右図の赤線で示されています.補正は小さなものですが,EXAFS 解析の精度に影響を与えるかもしれません.
ご用心
この種の補正は,低エネルギー領域で蛍光法により測定された EXAFS スペクトルにのみ適用可能です.この手法を正しく使わないと,χ(k) をゆがめてしまい,解釈が困難になってしまいます.また,この手法を不適切なプレエッジおよびポストエッジの線と使うと,やはりデータをゆがめてしまいます.すなわち,これらが正しく選択できているかどうかは 自己責任 ということです.
このエネルギー依存規格化は次のスクリーンショットに示すように,バックグラウンド除去のセクションの下のチェック"ボタンでコントロールすることができます.
このチェックボックスは,通常無効化されています.もし,有効化したければ,環境設定 の ♦Athena→show _funnorm を有効化する必要があります.そうすれば,このチェックボックスは自動的に有効化されます.
ご用心
この機能を使うと,バージョン 0.9.23 以前の ATHENA および ARTEMIS との互換性がなくなってしまいます.もし,この機能を使うと,古いバージョンのソフトを使っている人とプロジェクトファイルを共有しようとしても,プロジェクトファイルを開くことができません.
ご用心
ATHENA のこの機能を使う場合には,他にも注意点があります.もし,エネルギーに対してプロットしたとすると,プロットされる関数は, μ(E) とそのバックグラウンド関数であって,補正された μ(E) とそのバックグラウンド関数ではありません.しかしながら, χ(k), χ(R), そして,χ(q) は補正された μ(E) によるものです.特にノイズの強いデータについては,生の μ(E) に対して表示されるバックグラウンド関数が μ(E) に対して計算されるバックグラウンド関数とは本質的に異なる可能性があります.すなわち,エネルギーに対するプロットが有意なものに見えていても,k についてプロットすると,ゴミに見えることがあります.逆もまた然りです.繰り返しになりますが,ATHENA のこの機能を使う場合はよく注意してください.
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