4.3. バックグラウンド除去における Spline clamps と k の重み

4.3.1. Spline clamps

バックグラウンド関数の近似に区分スプライン関数を用いる欠点の1つは,スプライン関数の末端でその前後のデータが存在しないためにいくらか精度が悪くなることです.多くの場合,スプライン関数の末端が μ(E) データから上下に傾いてしまいます.よって,結果的に χ(k) データを有意にゆがめてしまうことになります.

IFEFFIT では,spline clamps と呼ばれるツールを提供しています.これは,スプライン関数が μ(E) データに合うように,χ2 の値に追加的な項を加えるという働きをします.スプラインとデータの差は最初と最後の5点のデータで計算されます.エネルギーに対して計算されるこの差の合計がユーザによって選択されたスケール因子でかけ算され,«rbkg» 以下の R の範囲から計算された χ2 に足されます.これは,データ末端に対してスプライン関数を収束させる様な効果があります.言い換えると,μ0(E) が μ(E) の振動構造に対してスムーズな関数となるという前提を元に,μ0(E) を決定するためのフィッティングに制限をかけることになります.

係数は事前に設定された以下の6つの値から選べます.すなわち,none, slight, weak, medium, strong, および rigid です.これらは 0, 3, 6. 12, 24, 96 という値であり, χ2 の評価において収束の強さを決めています.

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図 4.21 EuTiO3 Ti K-edge のデータについて,バックグラウンドを «kweight» を 1,spline clamp の上端を none に設定した場合.スプラインが末端でデータと合っていない.

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図 4.22 上端の spline clamp のみが異なる値での比較.rigid を使うと,データの末端でも物理的にもっとも確からしい挙動を示します.

clamp の初期値は,下端では none であり,上端では strong です.データの下端側では clamp はほとんど役に立ちません.μ(E) データは吸収端付近で急激に変化するため,データに対してスプライン関数がよく追随するようにバイアスをかけても χ(k) データの質を高めることはほとんどありません.上端側で強い clamp を用いると,データ末端でのスプライン関数の挙動がよくなる場合が多いです.

clamp 機構の動作は 環境設定 で変更することができます.♦Bkg→nclamp の項目を変更することで,clamp の効果の計算に含めるデータ末端の点数を変更することができます.♦Bkg→clamp1 および ♦Bkg→clamp2 パラメータは,2つの clamps の強さを決めます.clamp の強さは数値を変更することで細かく変更することができます.♦Clamp→weak パラメータは弱い clamp の値を設定し,その他も同様です.

4.3.2. バックグラウンド除去における k-weight の効果

バックグラウンド除去セクションでは,プロットやフーリエ変換に使われる k-weight とは異なる «kweight» を持っています.バックグラウンド除去用の «kweight» は、バックグラウンドのスプラインを求めるために実行されるフーリエ変換を計算するための値です.この «kweight» の値を変えると,バックグラウンドを決めるときにデータのエネルギーの低い側と高い側のどちらを強調することができます.

高エネルギー領域で小さくとも観測可能な振動構造を持つきれいなデータについては, «kweight» を大きな値にするとよりよい χ(k) スペクトルを得られるかもしれません.実際,この値を 2 あるいは 3 にすると,上図で spline clamp を最大値にしたのと同じような効果があります.

しかしながら,ノイズの大きいスペクトルで «kweight» の値を大きくしてノイズを増幅してしまうと,μ0(E) を適切に評価できなくなるという重大な影響があります. 実際,ノイズの大きなデータについて大きな «kweight» で計算した μ0(E) は,以下の例に示すように激しく振動してしまうことがあります.

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図 4.23 «kweight» のデフォルト値 2 を使って μ0(E) を計算したノイズの多いデータ.«kweight» を 1 にしても,(もちろん)ノイズは大きいままだが,バックグラウンド関数は適切にデータに沿っている

4.3.3. Spline clamp と k-weight の相互作用

spline clamp と «kweight» パラメータはしばしば強い相互作用を持ちます.spline clamp によって,μ0(E) をデータの末端まで追随させると,ノイズが多く,k-weight に大きな値を使っているデータに対して驚くような効果を与えます.これは前節で示したデータに起きたことです.spline clamp を弱くした方がよい場合もあります.

../_images/bkg_badkw_clamp0.png

図 4.24 上図と同じノイズの大きなスペクトルについて,«kweight» を 2 にした時のバックグラウンド.但し,今回は高エネルギー末端を spline clamp を none にしている.

小さな «kweight» と強い spline clamp を使うとよい場合もありますし,大きな «kweight» と弱い clamp を使ったほうがうまくいくこともあります.あるいは,大きな «kweight» と強い clamp を使った方がよい場合もあります.どうすればよいのでしょうか?実際のところ,確実な方法はないので,異なるデータが異なるパラメータに対してどのように変化するかという感覚を養うしかありません.とにかく,いろいろな組み合わせを試してみて下さい.




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