10.5. 差スペクトル¶
多くの場合において,一連の測定データの変化は測定中に起きている物理的な過程を示していることがあります.以下に示す図は水素が吸着した Pt 触媒について測定された一連の Pt LIII スペクトルです.このシーケンスでは,水素が脱離していっており,スペクトルに観測可能な変化が現れています.
メインメニューから差スペクトルを選択すると,以下に示すような差スペクトルツールに置き換えられます.このツールを使って,μ(E),規格化された μ(E),あるいは μ(E) の一次微分あるいは二次微分の差スペクトルを計算することができます.
差スペクトルを意味のあるものにするには,それぞれのデータを正しくデータ処理しておくことが必須です.つまり, パラメータの選択 エネルギー較正, データの整列,してその他すべての処理について十分な注意を払うことが必要です.
グループリストのそれぞれのデータをクリックすると,ウィンドウ上部にあるメニューで標準スペクトルとして選択されたグループとグループリストで選択されたグループの差スペクトルが計算されます.差スペクトルは,オプションが選択されていれば対象データおよび差スペクトルの基準スペクトルと共にプロットされます.Form とラベルされたメニューから μ(E),規格化された μ(E),μ(E) の一次微分あるいは二次微分のどのスペクトルについて差スペクトルを計算するか選択することができます.multiplier は引き算を行う前に基準スペクトルに対して適用されるスケール因子です.
もし,基準スペクトルと対象データをひっくり返してしまったら,invert ボタンをクリックすることで引き算の順序を変更することができます.
プロットウィンドウで茶色の印で示されている2つの点を選択することで,選択範囲の積分を行うことができます.
差スペクトルはデータグループとして保存できます.これらのデータグループは他のデータと同じように扱うことができます.デフォルトでは,差スペクトルは規格化されたグループとしてマークされます.すなわち,規格化アルゴリズムをスキップするということです.renormalize ボタンをクリックすることで,得られたグループを通常の μ(E) データとして扱うようにすることもできます.差分の形式が普通の μ(E) に設定されると,ボタンが付きます.
得られたデータグループの名前は Name template を使って設定され,特定の値によって置換されるトークンを使うことができます.
%d
データスペクトルグループの名前
%s
標準スペクトルグループの名前
%f
差スペクトルの形式
%m
スケール因子の値
%n
積分範囲の下限
%x
積分範囲の上限
%a
積分面積
グループリストでマークのついたすべてのグループについて順に計算された積分面積は Plot integrated areas for all marked groups とラベルされたボタンをクリックすることでプロットすることができます.その結果は以下の様になります.
差スペクトルの利用
- 磁気二色性 (Magnetic dichroism)
ATHENA のこの機能は二色性の検討に直接適用することができます.規格化された μ(E) の差スペクトルとその積分は磁性材料の磁気モーメントの計算に利用することができます.
- 実験に関する補正
規格化された測定データとブランク測定 – すなわち,同じエネルギー範囲において同じ測定系を利用して,光路上に試料を置かずに測定したデータを利用して,XAS 測定における非線形性に対して,ある種の補正を行うことができます.この種の補正は,Chantler らが示しているように,普通の μ(E) を試料ありとなしで測定したときの差スペクトルと等価です.
- Christopher T. Chantler, Zwi Barnea, Chanh Q. Tran, Nicholas A. Rae, and Martin D. de Jonge. A step toward standardization: development of accurate measurements of X-ray absorption and fluorescence. Journal of Synchrotron Radiation, 19(6):851–862, Nov 2012. doi:10.1107/S0909049512039544.
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