10.4. 対数比/位相差分析

対数比/位相差解析は純粋に経験的な手法であり,ある種のデータの第一配位圏のパラメータの変化を決定するために使われることがあります.この手法はよく分離された第一配位圏,すなわち,第二配位圏以降が第一配位圏よりスペクトルとして十分離れているデータである場合に有用です.この解析が有用でありうる状況のすばらしい例としては,温度変化が考えられます.この場合,対数比解析は,温度の関数としての σ2 の変化を求めたり,位相差解析は結合長の変化を求めるために使われたりします.

対数比/位相差解析のアプローチは未知のデータを十分既知の標準と比較するというものです.温度変化の場合,例えば標準スペクトルとして,室温で測定されたものが考えられます.より構造的に乱雑さが大きな酸化物と比較する場合には,よく秩序だった酸化物かもしれません. どの場合についても,この解析は標準物質と未知物質の第一配位圏における原子のばらつきを様々なキュムラントの差として返すだけです.

The analysis is performed by first by Fourier filtering both the data and unknown to spectrally isolate the signal from the first coordination shell. Then polynomials are fitted to the log of the ratio of the amplitudes of the χ(q) functions and to the difference of the phases of the χ(q) function.

Log-Ratio(q)  = ln( Amp_unknown(q) / Amp_standard(q) )
Phase-Diff(q) = Phase_unknown(q) - Phase_standard(q)

これらはキュムラント展開を使ったフィッティングです.

Log-Ratio(q)  = c_0 + 2*c_2 * q^2 + (2/3)*c_4 * q^4
Phase-diff(q) = 2 * c_1 * q - (4/3) * c_3 * q^3

標準スペクトルはこのツールの上にあるメニューから選択することができます.未知試料は現在選択されているグループ,すなわちグループリストで強調されているものです.

また,この手法はスペクトル的に分離された第一配位圏を必要とするため,いくつか注意すべき点があります.

  1. 完全に秩序だった配位圏は必須ではありませんが,第一配位圏の原子のばらつきはいくつかのキュムラントによってうまく記述される必要があります.よって,この手法は構造的な乱雑さの大きい試料に対しては不適当です.

  2. この解析はしばしば文献の中で “モデルによらない分析手法” として言及される場合がありますが,利点を強調しすぎています.この手法は構造に由来するキュムラントの変化を解析するのに使うことができますが,それぞれのキュムラントの絶対値を得ることはできません.

  3. この解析を第二配位圏以降に利用するには,第二配位圏が第一配位圏とも,第二配位圏より遠いところともスペクトル的に分離されているという極めてまれな条件が必要です.

  4. より遠い配位圏あるいは多重散乱によって,解析対象の配位圏に影響がある場合は,解析結果に対して系統的な不確実性が含まれてしまいます.

メインメニューから Log-Ratio を選択すると,メインウィンドウは以下のような対数比/位相差ツールに置き換えられます.

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図 10.19 log-ratio/phase-difference ツール

解析に使うフーリエ変換パラメータと範囲を選択し,Fit ボタンをクリックすることでフィッティングが実行されます.強度の対数比に対するフィッティング結果は,フィッティングが終わるとプロットされます.ボタンは強度の対数比に対するフィッティングだけでなく位相差に対するフィッティングをプロットするためにつかうこともできます.フィッティングにおいては最大で4次のキュムラントまで利用します.データの質に応じて,フーリエ変換範囲の選択することが重要で結果に大きな影響を与える場合があります.Save ratio data and fit ボタンをクリックすることで,対数比および位相差のデータをフィッティング結果と共に保存すことができます.

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図 10.20 金属銅における対数比フィッティングの結果

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図 10.21 金属銅における位相差フィッティングの結果

3つのプロットボタンはちょうど紫色のプロットボタンと同じように働き,標準とマークのついた未知物質についてのみ働きます.

この手法に関するお勧めの解説は以下のものです.

  • Grant Bunker. Application of the ratio method of EXAFS analysis to disordered systems. Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, 207(3):437 – 444, 1983. doi:10.1016/0167-5087(83)90655-5.



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