公式チュートリアルにおけるフッ化アパタイトのリートベルト解析
Note
繰り返しになりますが,この日本語チュートリアルは公式の英語のチュートリアルの一部を元に説明したものです.公式動画 の方が分かりやすいと思います.
デモデータの読み込み
操作
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Laboratory X-ray Powder Data - Fluroapatite の Exercise files are found here から All_files.zip (←直接ファイルをダウンロードできるリンクになっています) をクリックしてダウンロードする.
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ダウンロードしたファイルをデスクトップ上のフォルダに展開する.

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メニューバーの Import -> Powder Data から from GSAS powder data file を選択

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ファイルの形式を any file (*.*) に変更し,FAP.XRA を開く.

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このファイルを読み込もうとしているか?という確認のダイアログで はいを選択.

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すぐに "inst param file" を選択するファイルダイアログが出てくるので,INST_XRY.PRM を開く.

Note
inst param file とは XRD パターンを測定した装置に関する情報を含んだファイルである.ここでは,とにかく同梱されているファイルを使えばよい.
Warning
装置に関するパラメータファイルなので,当然, 自分で測定したデータについては,自分が利用した装置のパラメータを使わないと誤った結果を導く. パラメータの作り方は GSAS-II tutorials の Powder diffractometer calibration に説明されている.
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適切にデータが読み込めると以下のようにデータがプロットされる.プロット全体が表示されていないかもしれないので,ウィンドウを広げるとよい.また,「虫眼鏡」ボタンで選択範囲の拡大,「家」ボタンで全体表示に戻すことができる.

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メニューバーの Import -> Phase から from GSAS powder data file を選択

GSAS-II において,.exp ファイルは結晶構造やフィッティングパラメータなどが記録された相 (phase) のデータを指すようだ.先に読み込んだデータはフッ化アパタイトであることが分かっているので,フッ化アパタイトの結晶構造データを読み込んでいる.
Note
GSAS-II の .exp ファイルには結晶構造データが含まれているので,このデータを VESTA で読み込んで結晶構造を表示させることもできる.
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floro という名前を付けて,Add histogram でデータにチェックを入れる.

Add histogram で行っているのは最初に読み込んだ測定データと想定する構造データ (phase) を関連づけると考えればよい.
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新たに Phase が読み込まれる.

Note
違う時期にスクリーンショットをとったので,左のツリーリストの Phases に fap とある.fluro となっていてもどちらでもよい.
ここまででデータの読み込みが終わった.次から想定する結晶構造などのパラメータを変化させながら計算される XRD パターンと実測の XRD パターンを一致させていくことで,結晶構造の最適化を行うことができる.この操作を Rietveld refinement と呼ぶ.
実験データにはたくさんのピークがあり,低角度側で少し上にそれているような形になっている.そこで,まずはこのバックグラウンド(ピークとは異なるベースの部分)と読み込んだフッ化アパタイトの結晶構造を元に,フィッティングを試みる.
Note
パターン(XRD パターンや何らかのスペクトル)に対して,ある計算式で求めたパターンを合わせることを日本語で 曲線当てはめ と呼ぶ.英語では Curve fitting である.今回行っている Rietveld refinement でも日本語では単にフィッティングと呼ぶことがあるが,少し正確に言うと,ここで行っているのは元々構造がある程度分かっている対象について,以降に行うように格子定数などを変化させて実験データと合わせていくので,英語では fitting ではなく,refinement (精密化)と呼ばれることがある.fitting はより広い概念.refinement は精密化という狭い概念である.
デモデータのフィッティング
操作
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バックグラウンドをよりよくフィッティングするために,左のツリーリストの PWDR FAP.XRA から Background を選択して,Background function に log interpolate を選択,Number of coeff に 9 に変更する.

Note
バックグラウンド関数にはいくつかが提案されており,筆者を含む初心者に適切なものを選ぶのは難しい.いくつか試してみることを勧める.今回の log interpolate で係数を 9 つくらいにするのはよくある選択肢なので,他のデータでもこの設定から始めるのは悪くないだろう.
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メニューバーの Calculate から Refine をクリックしてフィッティングを行う.最初のフィッティングなので保存するファイル名を聞かれる.ここでは例えば,Fluro という名前にしておく.

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うまく動けばフィッティング結果の統計値が表示される.ここでは Rw という値が 45 程度になっており,あまりうまく合っていないことを示している.

Note
Rw がどの程度になればいいという目安はあるが,一旦ここでは置いておく.
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フィッティングの結果は以下のようになる.青のプロットが実データ,(少し見にくいが)緑色の線が理論的な計算結果であり,エメラルド色の線は実データと理論パターンの差分を示している.つまり,たくさん差(ずれ)があってうまく合っていないということが分かる.

元々想定していた結晶構造の格子定数(ユニットセルの大きさ)が正しくないため,うまくフィッティングできていないと考えられるので,次に単位格子の最適化を行う.
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Phases の Fluro の General タブにある Refine unit cell にチェックを入れる.この実験データは実験室で一般的なブラックブレンターノ型の装置で測定されている.試料の上下方向のわずかなずれがパターンに影響を与えるので,このずれを最適化するために,PWDR FAP.XRA の Sample Parameters で Sample displacement にもチェックを入れる.

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Calculate から Refine をクリックしてフィッティングを行うと,その結果は以下のようになる.Rw は 14 程度になっているだろう.

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青のプロットが実データ,(少し見にくいが)緑色の線が理論的な計算結果であり,エメラルド色の線は実データと理論パターンの差分を示しており,かなりうまく合っていることが分かる.

XRD パターンは結晶子径や結晶子の歪みによっても変わる.GSAS-II でどのような式で表現されているかは置いておいて,次にこれらのパラメータの最適化を試みる.
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更にうまくフィッティングさせるために Phases -> Fluro の Data タブにある Size および Microstrain にチェックをいれ,Refine を実行する.

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すると,Rw はおおよそ 11 くらいになる.

ここまでは単位格子の格子定数と結晶子径などを最適化していった.いよいよ単位格子中の原子位置の最適化を行う.
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Phases の Fluro から Atoms タブを開き,表形式で表示されている原子位置について,refine という見出しをダブルクリックする.

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そうすると,以下のようなダイアログが出てくるので,X と U にチェックを入れて,OK をクリックして,もう一度 Refine を実行する.

Note
ダイアログに書いているとおりであるが,X は coordinates つまり原子位置,U は thermal parameters つまり熱振動などによる原子位置の揺らぎを表すパラメータを最適化することになる.
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すると,Rw はおおよそ 9 くらいになる.かなりよく合っているといってよいであろう.

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最後に Export から Phase as で Quick CIF を選び,ファイルを保存すると VESTA で最適化結果を表示することができる.

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保存した cif ファイルを VESTA で表示すると以下のようになる.
